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2020.07.24 コラム

日本の家はなぜ断熱性能が低い?知っておきたい断熱のこと

このページをご覧になっている方は、お住まいの住宅環境になんらかの問題意識をお持ちかと予想しています。とはいえ国外で生活した経験や外国人の友達からの指摘、(もしくは旭化成の「ニホンの家は寒いです」という広告キャンペーンによる気づき)でもない限り、従来は我慢してなんぼな側面もあった日本の住宅の冬場の寒さまたは夏場の暑さは、世界的に見て異常なほどの断熱性の低さが原因だと気づかない方も多いかもしれません。このページでは日本の制度的な問題の指摘などをご案内しながら「なぜ」日本の家・部屋は寒いのかを検証したのち、断熱の基礎編としての「おうちの暖め方」をまとめています。

 
1.消費者が「断熱」にシビアになるべき本当の理由!日本の家はなぜ寒い?
・断熱のメリットは周知の事実
家を建てる際、もしくはリフォームの際、断熱が重要な理由を想像するのはそれほど難しくないかもしれません。家の室温を夏は涼しく冬は暖かく保てることで光熱費の大きな節約になることはもちろん、結露を防ぐことで健康を害しかねないカビ類の発生を防ぎ、おうちの耐久性の向上にも貢献することでしょう。いずれにしてもおうちの断熱性についてきちんと対処すれば快適さに劇的な効果をもたらすことができます。寒さや暑さを我慢することの美徳を唱えたくなる気持ちも分からなくもないですが、主に風呂場のヒートショックによる事故死の確率は交通事故による死亡率を大きく上回る(年によって2~4倍の差があり)ことを踏まえたうえで、もう一度きちんとした断熱の必要性を考えてみることをおすすめします。
・断熱はやらなくていいし、やりたくない、日本の建築事務所の本音
断熱が重要な理由は上述のように明らかな一方、日本の建築業界には断熱も含めた「おうちの燃費」とも言えるエネルギー効率について総体的に軽視しがちな側面があります。理由の一つとしては、日本は欧米と異なり建築物に対する断熱性についての義務基準がないためというのが一つにあります。乱暴な言い方をすると、「(義務として)やらなくてもいいからやらない」ということになります。よりコストに厳しい客層にアピールしなければいけない住宅メーカーはなおさら断熱は最低限で、冷暖房を使わなければ外気温と室内気温がほとんど同じ、なんていう住宅を平然と売り出しています。そしてもう一つの理由としては日本には建築物エンジニアの職種の存在が確立されていないことが挙げられます。おうちの断熱性能に特に敏感な北欧のスウェーデンを例に挙げると、デザインの物理的な実現可能性はもちろん、断熱性等の機能面の追求を、技術的知識に特化して教育を受けた建築エンジニアが担当します。一方建築家というと外観はもちろん使用する人々と建物のコミュニケーション(インターフェイス)により注目した仕事をする人を指し、それぞれ補完し合いながら一つの建物を作り上げます。スウェーデンに限らず、多くの国でこうした分業を前提とした教育が行われているのに対し、日本は建築家が機能面の提案も行うのが通常です。当然、建築士の知識や意識の高さによって機能面が後回しになることも多く、デザイン面をより重視する建築家が断熱性・気密性の確保という作業を嫌煙するような例もよく聞かれます。技術的な数字に疎い建築家にとっては「(断熱対策を)やりたくない」というのが本音にあるのではないでしょうか?そもそもデザインに長けた人材が、同時に専門的な単位や計算式が羅列する建築物理にも長けていなければいけないという状況自体に無理があるとも言えます。もちろん、日本でもこうした業界の現状に危機感を覚え、断熱性とデザイン性の両立に独自の解を出している建築事務所も在るものの、まだまだ数としては目立つほどではありません。これから家を建てようとかリフォームしようという方が自分自身で断熱についての知識をつけておくことが重要な理由は、建築家ましてや住宅メーカーに任せっきりの家造り、外観や搭載の最新機材(太陽光発電やHEMSなど)ばかりにこだわった家造りでは、断熱性がないがしろにされる可能性が高いからです。そうして得る成果物とは、快適でない割に冷暖房費ばかりがかさむ家、耐用年数も短く、いざ売ろうとする時にはいっさいの価値も残らないような家です。
 
2.さぁ、おうちを暖かくしよう!「断熱対策」の基本ステップ
・あなたが求める断熱性能を、分かりやすい指標をもってイメージする
断熱といえどもその性能のレベルはさまざまです。施工方法などにもよりますが、基本的には断熱材の分厚さと質が断熱性能に比例します。おうちの断熱対策の初めのステップとしては具体的な目標値を定めることです。つまり、どれくらい暖かい・涼しい家にしたいかを、より客観的にする作業です。断熱性を比較できる指標はさまざまありますが、一番実生活に即して想像しやすいのが冷暖房負荷でしょう。この数値で「どれだけ冷暖房を使えば快適さを維持できるか」、言い換えれば「どれだけの冷暖房費を毎月払うか」がおおよそですがイメージできます。冷暖房負荷を突き詰めるなら、世界一厳しい断熱基準と言われるパッシブハウスに行きつきます。無暖房住宅の別称も持つこのパッシブハウスの冷暖房負荷基準はそれぞれ15kWh/㎡です。例えば鎌倉にあるパッシブハウス(暖房負荷14.86kWh/㎡、冷房負荷21.32kWh/㎡)は年中通して家の冷暖房を小型エアコン一つでまかなえるとしています。
・生活パターンや美学とのバランスを考える
建物の断熱に関しては欧米のドイツや北欧を中心に研究・実践が進んでいます。日本では北欧と同じくらい冬の寒さが厳しい北海道などで断熱対策が進んでいます。北海道以外の地域でも沖縄を除いてエネルギー効率だけで見れば暖房のためのエネルギー消費が冷房に比べて断然大きくなっています。つまり、より電気代のかからない家にしたいという場合は冬の気候に合わせた高断熱住宅が正解と言えます。ただ、古来から四季の移り変わりの風情を大切にしてきた日本の文化に根差した暮らしを求める方にとって、しばしば断熱性向上のためにデザインに制限が出てくる事実は受け入れがたいことかもしれません。きちんと換気計画を行った断熱住宅は室内の空気環境こそ良好に保てるものの、庭とのよりオープンな関係を作ったり半野外アクティビティに積極性を出したりといったことが比較的難しくなります。ひとそれぞれお気に入りの季節が違うのはもちろん、レクリエイションの好みの多様化がどんどん進むこんにちだからこそ、断熱性に関しては生活を豊かにするための一つの選択肢として考えるほうがいいかもしれません。どうしても大きな縁側を確保したいけど電気を大量に使って環境を壊したくないというような場合は、太陽光発電や蓄電池の価格も安くなってきているので検討してみるものいいかもしれません。
・断熱対策は工務店によってさまざまだけど、ポイントはとてもシンプル
日本の建築基準で断熱に関してほぼ義務的な制限がないことから、意識の高い工務店はそれぞれ自分たちで独自の工法を模索しています。北欧に匹敵する冬の寒さと、マニラに匹敵する夏の蒸し暑さどちらにも対応できるような家づくりは一筋縄ではいかないことが多いのも事実です。こうした事情もあり、工務店も巻き込みながら議論が白熱しがちなのが「断熱材はどれを使うか」、「外断熱か・内断熱か」、「高気密か調湿(中気密)か」などといった問題です。設計事務所ないし工務店はこれらの2項対立の議論でいずれかの立ち位置を取っている場合が多いですが、問題はどちらが優れているかよりも、その施工店がどれだけ自身の施工技術を突き詰めているかの方が重要と言えそうです。というのも、外断熱でも内断熱でも、高気密でもそうでなくても、要は施工の丁寧さや実務者がどれだけその素材や工法を理解しているかで成果物の質が大きく変わるため、施工の質は無視できません。工務店選定の際は実績数がおおまかな目安となるでしょうし、以下の3つのポイントに沿って各業者の断熱対策を包括的に理解することも助けとなるかもしれません。
<「高気密」でも「調湿」でも、要は結露対策として成り立っていればよし>
日本で断熱材の利用が一般化したのは石油ショック後で、家庭のエネルギー使用量を抑えることを目的に広く使われるようになりました。ただこの時代はまだ断熱に関する実例が少なかったため湿気に対応するための技術や知識が乏しいまま断熱材だけを詰め込むといった工法が多々見られ、木造の多い日本の住宅では壁や床にカビが生えて健康被害や家の著しい劣化につながる結果となりました。結露防止策としては大まかに分けて2種類の方法があります。一つは壁や床に水分が入り込まないようにするために構造部分をポリシートで覆うなどで密閉状態を高める高気密構造。逆に水分がすぐに蒸発するような素材の断熱材を使用するなどといった例が挙げられます。
<温度差対策には丁寧な施工で中外・上下の隙間をなくす>
部屋の中で寒いところと逆に暑すぎるところがある状態は決して健康的とは言えません。部屋の上部はのぼせるような暑さなのに、足はいつまでたっても暖まらないという問題は、単に床暖房にしたからと言って解決できる問題ではありません。部屋の温度の均質性は快適さの指標の一つと言えます。温度の差が生じる主な原因は、どこからともなく入ってくる隙間風、そして壁の中で階下から階上へと移動する気流の2つです。隙間風に比べて気流はあまり聞きなれない言葉ですが、暖房をつけてもなかなか部屋が暖まらないのに、階上の屋根裏に上ってみると籠ったように温度が上がっているといった現象が確認できる場合は気流対策がきちんとできていないことが原因と考えられます。施工の丁寧さに起因する少しの隙間が、部屋の快適さに大きな影響を及ぼしかねないことは経験を積んだ施工店ならよくわかっているはずです。
<空気の質を高める換気計画>
人間の呼気や調理器具、冷暖房器具などで室内の空気質は低下していくため、一定間隔での換気は必要不可欠です。実家の台所などで見られる外気と直接つながっているような換気扇はエネルギー効率的には非常に非効率です。空気室を保つための換気方法はいくつかありますが、エネルギーを極力使わず、窓などの位置から計画的に空気の流れを作るパッシブ換気といった手法や、室内の空気温度を保ちながら、フィルターを通したきれいな外の空気と入れ替える、高性能の熱交換換気システムの導入などが手段として挙げられます。